na0snowの備忘録

日々の読書の備忘録。

『武士道』 著:新渡戸稲造 訳・解説:奈良本辰也

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1900年、英語で書かれアメリカで出版された本書。

当時、江戸から明治への変遷を遂げ、日清戦争に勝ち抜き、東洋の小さな弱小国から世界の列強へと進化していた日本。そんな日本の姿を知ろうと多くの外国人がこの『武士道』を読んだといわれている。

 

 

ある日ベルギーの法学者と著者が散策していた時、会話が宗教の話題になった。

そこでベルギーの法学者は日本に宗教学習がないことを聞いて驚き、「宗教がなくていったいどうやって子孫に道徳教育を授けているのか」と問うたのがこの本の始まり。

 

その時は答えられなかった著者だったが、そのことを考えていくにつれ、日本人の道徳の根幹にあるのは武士道だと気づいたという。

著者の新渡戸稲造1862年南部藩士の父の元に生まれた、正に武士道の教育を生で受けた人だった。

 

じゃあその武士道とは一体何なのか、それを記したのが本書。

「義」「仁」「名誉」などの武士道を構成する項目を丁寧に読み解き、武士道の本質を明らかにしていく。

 

 

海外向けに書かれた本なので外国人に親しみやすい、理解しやすいように海外の学者・哲学者の言葉を頻繁に引用しているので、それを知らない自分にとっては少し読みづらくもあった。

 

武士道とは元々日本に馴染んでいた「仏教」と「神道」に中国で治める者の道徳として発達した「儒教」が合わさり生まれた、日本特有の道徳。

解説の奈良本辰也

彼岸の世界に真実をみる「仏教」と

此岸の世界にこそ絶対者があるとする「儒教」は

本来は対立しているものだとする。

 

ただ、その相反する2つの思想が武士道の中では何の違和感もなく共存している。

 

この相反するものを共存させるのは、「神仏習合」やカレーライスに代表される「洋食」などに見られる、日本特有の考え方というか思想傾向だと感じた。

 

そして面白かったのは

儒教」が民が治める者が持たねばならない必要条件の最高として『仁』をおいている。

つまり『仁』を支えにしているのに対して、

 

武士道では『義』と『勇』を重要な2本柱だとしていること。

 

これは恐らく、

王1人のための「儒教」に対して

「武士道」は民を治める特権階級の武士全体のための道徳として発達したからだと思う。

強大な権力を持っている王には慈愛の心である「仁」が最重要である。

それに対して、力の弱い立場武士たちも含めた武士道では主人に尽くす「忠」と「義」が結びついて、重要視されていったのではないかと思う。

そしてあくまで武力階級だった武士にとって、行動こそが全てであるため、「義をみてせざるは勇なきなり」の状況にならないように、「勇」も重視されたのではないかと思う。

 

 

作者の新渡戸稲造は武士道の精神は不死鳥のように蘇り、再び日本の道徳の支えになるだろうといっている。

確かに明治維新が起こり、武士が消えた明治末期では、思想として武士道が生き残る可能性は充分にあったのかも知れない。

 

しかし、第二次世界大戦の敗戦で、日本の思想はことごとく消え去ったと思う。

天皇は神の子から象徴へと変化した。

同じように武士道の名残りもなくなってしまった。

 

ここで僕はこの本の始まりを思う。

ベルギーの法学者が驚いた宗教学習のない日本、それは今も続いている。

しかし、新渡戸稲造が日本の道徳の基盤だと考えた武士道は今や消え去ってしまった。

 

じゃあ僕らは一体、今何を道徳の基盤としているのか。

それをもう一度しっかりと考えてみたほうが良い気がする。